高松ペア、大逆転金メダルの理由 バドミントン【井川里美評論】

リオデジャネイロオリンピックで、バドミントン女子ダブルスの高橋礼華選手、松友美佐紀選手(高松ペア)が見事、日本勢初の金メダルを獲得しました。
フルセット大接戦だったこの試合を、シドニーオリンピック日本代表 井川里美が振り返ります。

———————-
まず、準決勝が本当に素晴らしかった。
相手は韓国の選手ですけど、この試合では高松ペアがこれまでやってきたようなことをすべて出し、本当に文句ゼロと言うくらい完璧な試合をしました。

決勝での相手はデンマーク。
やはりミックスをやっている選手の場合は特殊っぽい感じの陣形をとってきたりとか、前に入ってくるのが早かったりします。

更にはデンマークのカミラ・リターユヒル選手が身長183cm、クリスティナ・ペデルセン選手が178cmと、ヨーロッパならではの高身長なんですよね。
一方、松友美佐紀選手が159cm、高橋礼華選手が165cmですから、かなり小さく見えましたよね。

前半はプレイが固くて高松ペアが実力を十分に発揮できてないのかな?といった感じで押せ押せの中やられてしまいました。

2セット目は相手による捨て試合みたいな感じです。
前半はちょっと回ってやっていましたけど、高松ペアが先制を取りました。

日本ではスタートの時にじゃんけんでレシーバーかサービスかを決めますが、海外はじゃんけんがないので、すべてコイントスなんですよ。
コイントスでデンマークの選手がレシーバーを取ったわけです。
あの時点でファイナルを見越しているな、と私は思いました。

例えば、世界選手権やアジア大会などの国際大会では、体育館の室内の温度を保つということがあるらしく、その影響で風ができ、コートの中にも風が流れます。
ということは前半で1セット目を取りに行った時、入るコートが向かい風のほうが大体の人がやりやすいと思うんですよ。

向かい風は思いっきり打ってもアウトにならないし、逆に相手はちょっと強く打てばアウトになってしまう。
その時に確実に1セット目を取りたいとなると、向かい風を選ぶ人が多いと思うんですよね。

それで確実に1セット目を取りに行くことにしたのだと思います。
そのまま勢いが乗り2セット目が押せ押せになれば、追い風は上げればアウトになる率が高いですけど、打ち込むようになると早いわけですよ。

ただ追い風ということはシャトルが自分のところまで来にくいというところもありますので、風で押されて本来はここまで伸びてくるだろうという予測の元、そのシャトルを取りに行くんです。
しかし風によって予測通りにならないんですよね。こうなると若干やりにくくなるので、いろんな計算をした中でこちらのコース取ったのではないかと思います。

1セット目って結構みんな固くなるじゃないですか。
最初はミスも多いわけですよね。特に決勝ともなれば。

今までないわけですよ、オリンピックの決勝なんて。その中で2セット目をね。
もう大差になっちゃったので、相手は3セット目に賭けてました。

3セット目、確か11点を先に取って折り返したはずなんですけど、僅差で折り返しているわけですよ。
ただその後に連取はしても向こうにどんどん点数を取られ、やはりプレイもそれなりに点数が離れれば萎縮していくわけで。
でも相手が19点に達した時に、もう開き直ってるわけではないと思うけど、本来のプレイが出ました。

今回の一番は、やはり高橋選手です。
松友選手は容姿も可愛いらしくてテレビに映る率も、高松ペアの中ではどちらが高い?と言われればやっぱり松友ですし。
ペアの中でもラケットがすごい売れているのは松友さんのラケットなんですが、私から見て決勝で本当に出来が悪かったのは、松友さんですよ。

でも最終最後、本来だったらビビッて手を出せないところをバンバン手を出して取りに行って、そういう点では松友の力というものがすべて出たのではないでしょうか。
しかしそれを出させるために一役買ったのが、やはり高橋さんなんです。

どんなに振られても崩れない・走れる・前衛が決めきれなくてもフォローに回れる。
相手が普通だったら落としてしまうような球もカウンターみたいに飛びついて対角線に打つなど、ミックスの男子役を見ているかのような感じで見ていました。

あの子は本当に強い。

私は高橋選手のそういう本当の底力というか、これに賭けていたんだなという思いを決勝の戦いを見て感じました。
そして、追い上げた時に一番素晴らしかったのは、17点から18点を取った時の、松友選手のクロスです。
今まで1本も打ってない球をここで打つか!というくらい打ちましたよね。

カットみたいに見えますけど、カットスマッシュのような、全力スマッシュという感じでもないですよね。
だから長いけど、落ちるのが早い、でもここに打ってこないだろうなという中で、意表を突かれた感が満載です。
それであの1本は本当に素晴らしい1本ではないかと。

通常ああいった球は先に見せるっていうケースが多いんですけど、結局高橋さんというのは振られてなにかというよりは、
いかにして後ろから打って攻めに行くか、というのも最近多く見られる点ではありますけど、そこからいかにして前に行っていかにして前後代われるかという。

しかし、振られてしまえばやはり高橋選手のほうが下がってきてしまうので、同じところに上げられるケースが非常に多いわけですけども、そこでよくあそこに打ったなと。
普通の人だと外って狙いにくいわけですよ。
アウトすればもうマッチポイントなんで、よく打ったなと。

あれは天才的な一球ではないかとテレビを見ながら思いました。
やはり本来のスキルを見れば勝つ選手だなと。
最初、地に足がつかない感じの試合だったので、これは危ないのでは?と思って見ていましたが、後半になってからはどれだけやられてもプレイがブレませんでした。

それで今までデンマークのほうも押せ押せな感じで来ていたものが、来なくなりましたからね。
最後の19打って20・21というのも、打っている場所が違えど、打っているコースがほぼ一緒で、そこで2発連続同じ形でミスして終わりといった感じです。
Q「なぜデンマークの人は、あそこでミスしたんでしょうかね?あの大事なところで。」

例えば、今まで早いスマッシュを打たれてたということは、レシーバーもそれを待つわけですよね。
そこで緩急をつけられてしまうと、早いのを待って止まって取っていたら、次も来るだろうと思わせた時に速度があまり早くなかった。
でもさっきまで取っていた速さの球と同じタイミングで振らされちゃったとしたら、引っ張った形になったわけですよね。」

球が遅かった可能性はあるのでないかと。
あそこで足を半歩、ポンと打ちに行ってたら、カウンターのような球ではないかなと。
しかし引っ張っている恰好からすると、結局はあそこで引っ張っても松本さんのフォアにしか入らないので、それを狙って彼女は打ってたのではないかと思うんですけどね。
引っ張れば自分に来る、相手が振り遅れて引っ張ってくれたら、パートナーのフォアに入る。
そこで無理に引っ張ってもクロス球を前衛が取ると。

そういった感じで打ってるのではないかと思います。
勝負強い感じはしますよね。
勝ち慣れていない人の場合は後何点で勝てるという時に、大事にその点数を取りたくなってしまうので、結局ミスをしないように勢いのない球を出すわけですよ。
勢いのない球というのは相手からしてみるとかっこうの餌食なので、やられてしまうケースが多いのです。

そういった中で、相手がどのようにしてもプレイが一切何も変わらなかったのは、やはり勝負をし慣れているというか、そういう場を何度も経験してきているというところではないかと私は思うんですよ。
今までバドミントンをやってきた選手すべての人が成し得ていないというものを彼女たちは覆すかのように勝ってきています。
経験値というところでも高い位置にいますし、練習量やトレーニング、後はやはり心ですよね。

結局は技術だけじゃなくて、肉体も心も。相手が疲れてゼーハーしている時も、彼女たち、ひょうひょうとしていますからね。
そういう点だと、それなりのすごいトレーニングをしている証拠ですよ。

本当、心技体とよく言いますけど、そのすべてが備わっている選手たちではないかと今回のオリンピックを見ていて思いました。
本当に快挙ですよ快挙!

今までの日本人を見ても金メダルが取れたらいいねと言われる程度で、確実にこの人たちがメダルを取れるというものはなかったんですよね。
そういう点ではひとつの歴史を築いたんじゃないかと思います。

そして、私のイチオシ奥原選手ですよ。
私たちが出た頃はシングルスとダブルスだったらどちらが世界で戦いやすいかと言われたら圧倒的にダブルスとなっていましたが、彼女は学生時代からひたすらシングルス一本でやってきました。
今回3位という形でこれはこれで素晴らしいことです。

今までシングルスで入賞なんてそんなになかったはずなので。ですので東京オリンピックまで頑張っていただきたいなと思います。
あとは彼女の場合、身長が無い分、足で稼ぐしかないんですよ。

インドの選手、えらい手足が長く、彼女が1.5のところ、奥原選手は2歩、2.5とか。
でもやはり打たれてしまう角度というものは違うので。

後、対戦成績が奥原選手のほうが何勝何敗とかファイナルでもつれこんで勝ってるとかそう言われていますけど、あくまでもそれは全部過去なので。
よく試合の始まる時に、この二人は対戦成績はなんとかかんとかと言われていて、情報を聞けば「じゃあ結果は~」と予測しますけど、でもそういうほうが怖いのです。

情報は情報なのでいいんですけど、過去はそうでも実際その場に来て何かあった時に、覚醒をしてしまえば分からないわけで、本当に勢いに乗ったものというのは強いんだなと改めて思った今回のオリンピックでした。
なので地道にやり続けて、最後まで貫き通せると、やはり常に心も乱れない。
そこまで半端ないことをやってきていますから、4年後に期待をしたいです。

まだ日本はバドミントン大国まではいかないですけど、バドミントンとしては徐々にそういったものが築き上げられていますから、東京オリンピックは全力で応援・期待したいと思います。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ページ上部へ戻る